「キプフェル」のカフェのコツ|No.008

南阿佐ヶ谷にある「キプフェル」。開業時は「カフェ・キプフェル」として運営されてい ましたが、3年前の改装時にカフェという冠をとったそう。ご自身が”生きていくことがお店のコンセプト”と語る松本さんに飲食店経営の秘訣をお伺いしました。

連載「長くつづくカフェのコツ」
カフェをたのしくつづける秘訣を現役オーナーさんにインタビュー!これからの開業を希望するみなさんにはもちろん、今まさに店舗を運営されてるオーナーさんにとってもためになるヒントが満載です。
コンセプトや看板メニュー、また、収益の多角化や集客などをテーマにしています。

──お店のコンセプトを教えてください。

「私が生きていくため」がお店のコンセプトですね。日々の運営も生きていく分の生活費をどう得ることができるか、そういう考え方でやっています。 なので、私の強味の1つでもあ る食材には本当の意味で真っ当なものを用意しています。最近は「口に入ればなんでもいい」「安ければなんでもいい」というような食事に対しての意識が低い人が多いように感じますが、当店ではどこで誰が生産しているのかわかる食材を仕入れて使用しています。そのためいわゆる「固定メニュー」はなくて、農家さんや市場から届く「今美味しい旬の食材」 を活かしたメニューを毎日考えています。

──何が送られてくるかわからないから、毎日メニューが変わるんですね!

基本的には仕入れた材料でメニューを決めています。生産者様からお預かりした食材を見て「今日はこの素材をどう活かそう」とメニューを考え提供しています。天候やお客様に合わせて、同じメニューを選んでも隣の人とは内容が少し違う、というアレンジもします。そういった工夫でロスを出さないようにし、真っ当な食材をきちんとお客様へ届けられて、生産者様に顔向けできます。

──経験があってこそのメニュー構成ですね。今のお店をやる前はどのようなお店で働いていたんですか?

社会に出て30年弱ですが、概ね飲食業に関わっています。飲食業に就くまでには迷走して様々な仕事をしていました。飲食業もやりたくて始めたのではなく、行き場がなくて仕方なく始めたら今に至っているだけです。調理師学校を出て、フランスやイタリアで修行して …なんていうエリート経歴ではないですが、20年以上に渡り様々な業態の個人店で経験を積んできたのは現場叩き上げとしての強味です。調理師免許は独学で取り、食生活アドバイザーの資格も持っています。 サラリーマンから未経験でカフェオーナーに転身される方も多いかもしれませんが、これまで生きてきた経験をどう活かすか。その人の積み重ねた人生経験を活かすことができればよいと思います。

──開業するきっかけは何だったのでしょうか?

25年位前から、私が70歳80歳になる頃(2040~50年頃)には年金があてにならない時代になっていくことはわかっていたことなので、その年齢になってからどう生きているかを逆算すると「独立する以外に生きる術が思い浮かばなくなる」っていう結論になるんですね、雇われの飲食業って。

40代前半くらいがお店を始めるための体力的なリミットとすると、じゃあいつまでにこれだけのスキルを、そのためにはどんな経験を、と常に逆算したうえで「そのために今やること」を決めてきました。 概ねいつでもお店を始めるための準備(経験や知識、スキル)がそろい始めたかな、というタイミングで物件を探し始め、そうすると様々な支援要素が舞い込んでくるんですね。 常に「本気でお店をやるんだ」の姿勢を周りに見せ続けることが大事だと思います。 最後に勤めた職場は3年居たのですが、仕事とは別に毎日準備のために時間を費やしていました。その準備のおかげで物件契約から3週間後にオープンさせました。

──3週間って早いですね! 開業資金はどうされましたか?

カフェの居抜き物件で内装はほぼそのままでスタートさせたため、造作譲渡費用はかかりましたがスケルトンからお店を作るよりもだいぶ少ない資金で始められたんじゃないかと思います。契約するための開業資金は、自己資金のほかに物件が見つかってから政策金融公庫に交渉しました。お店を開けるために必要な物は物件が見つかってすぐに手配しました。開けてしまえば少ないながらも日銭(売上)は入ってくるので、準備に時間をかけて空家賃を発生させるのはもったいないと思います。食材については同業の繋がりや、すでに築いておいた独自のルートがあったのでスムーズに手配できています。周りの同業者が納入業者に私の信用を保証してくれたのが大変助かりました。

──素晴らしいですね。最初は「カフェ・キプフェル」としてオープンしたんですよね?

カフェの居抜きで内装設備も変えていないので、保健所の検査を通すには同じ図面を出すほうが認可が早いです。また、ロゴをデザインしてくれたデザイナーさんから「キプフェルだけでなく何か肩書を」という意見もあり、開業当初はカフェを付けていました。肩書は邪魔にしかならないので、3年前の改装を良いタイミングに取り払いました。

──なるほど。具体的にはどういうところが邪魔だなと感じたポイントですか?

1ヶ月に必要な金額を維持するには、基本的には客数×客単価しかないのですね。私の武器はお料理と素材しかありません。 それをご理解いただいてお料理を楽しみにいらっしゃる方と、PC作業や物書きや時間つぶしにコーヒー1杯の方とは当然相容れないのです。「カフェ」がついていると後者を受け入 れなくてはならないのですが、どちらも受け入れていると結局全員がストレスにしかならないです。少ない席数と限られた時間をより有効に使い、なおかつきちんとお料理を楽しむ方に向き合うだけにしたいという考えに思い切れたのが改装という機会であり、「カフェ」を外せるタイミングでした。

──営業は何人体制でやられていますか?

開業(2014年3月)から2019年4月までは日中は私とアルバイトの2人体制、同5月から私1人で営業するスタイルにしました。アルバイトさんが正社員として就職しなければならなくなり、そのタイミングでしばらく1人でやろうと決めていました。19年10月からの消費税増税で少なくとも半年は売上が前年比でだいぶ落ちるからです。ランチタイムは安く(間口を広げて数を入れる)が常識のように言われますが、数をこなすために人手が必要になります。間口を狭くして(当店の場合は利益の出る適正価格に設定して)客数を絞り込むことで1人でこなせるようになります。周辺よりも高く感じても真っ当な食事を求めている方はいらっしゃいます。

ディナータイムも客単価3000~5000円使ってくれる方が主力ですので、 数人来てくれるだけで「今日は十分だな」という売上を目指せます。一般的なカフェだと500円のコーヒーなどで勝負することになるので、利益が出る売上目標を達成するには当店の何倍もの人に来てもらわないといけません。これからの時代それは益々大変なことです。「どういうお客さんをターゲットに、どんなものをどのように提供するか」これはしっかりと考えた方がいいと思います。

──客単価を意識することは、本当に大事な部分ですね。運営している中で一番楽しいことはなんでしょうか。

自分の自由にできることですね。誰かに出資してもらってお店をやっているなら別ですけど、自分が用意した資金で、やりたいメニューでお店をやっているんだから、その自由を満喫するようにしています。ただし忘れないようにしているのは、自由であることは必ず責任が伴うということ。うまくいかなくても自分が選んだこと。人のせいじゃありません。それだけ忘れなければ好きなようにやればいいと思います。

──最後にこれから開業したい方へメッセージをお願いします。

開業前にいくら綿密な計画を立てていても、実際開業すると絶対にその通りには進みません。オープンすることを目標にするのではなく、オープンしたお店でどうしたいのかを考えて始めたほうが良いと思います。常にアップロードしていくことも必要です。お店を続けていく限り毎日悩みます。最初の頃は死にたくなるくらい悩みますが、何年続けたってどうせ毎日考え悩むのですから、開き直って自由を満喫すればいいと思います。人の意見なんてあんまり聞かずに好きなようにやればいいんです。あなたの・私の人生ですから。

【カフェ情報】
kipferl(キプフェル)
https://kojincafe.com/cafes/kipferl/
http://kipferl.tokyo
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〒166-0004 
東京都杉並区阿佐谷南3-3-3 Y.S.Kビル 1F
電話:03-5335-7059
営業時間:11:30~23:00
定休日:水曜日
広さ:10坪
客席数:12席
スタッフ:1名

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